映画『ブレイン・ゲーム』レビュー│願わくば”継いでいない”といいな…

こんにちは!lenoreです。
今回は、アンソニー・ホプキンス主演の映画『ブレイン・ゲーム』について書こうと思います。
邦題はいかにも「犯人vs追う側の頭脳戦!」という雰囲気ですが、
実際はかなり重いテーマを扱っており、人間の生きる意思や尊厳について考えさせられる内容でした。
※原題は『Solace』…慰め・癒やし、慰める・苦痛を和らげる という意味です。
倒叙形式サスペンス風+SF+ホラー
すべてを"見通す"連続殺人犯 チャールズを演じるのが、コリン・ファレル。
彼と同じくらいの力をもつ医師兼博士兼犯罪分析官 ジョンを演じるのがアンソニー・ホプキンス。
この関係性がなんとなく分かる状態で始まり、事件が起こった後に分析して解明していくという
若干倒叙形式サスペンス風のなりたちをしていました。
そしてその分析中には、未来の予知や過去を感じ取る描写が合間合間に挟まっていて、急なSF味もあり、
過去の描写(=犯行を分析するシーン)が鮮明なのもあって、結構ホラー味もあり、
今までにあまり観たことがないタイプの映画でとても面白かったです。かなりハラハラしました💦
「究極の愛の行為は、この上なくつらい」
【この段落以後、内容について言及があります】
この映画のテーマは、
「究極の愛の行為は、この上なくつらい」
チャールズのこの言葉に尽きるのではないかと思います。
チャールズとジョンの違い
ALSやガン、脳腫瘍、さまざまな病にかかった見ず知らずの他人を
「究極の愛の行為」として「彼らが痛みを感じることになる前に」首の延髄を突き刺して殺害したチャールズ。
2年間闘病し、白血病の辛さから「痛くてたまらない」「怖い」と目の前で訴える娘のため、
点滴に薬を注入し「これで楽になるよ」と優しく顔を撫で、
笑顔で返す娘が次第に静かになり、心電図が止まる音を聞きながら娘の最期を看取ったジョン。
この2人の違いは、
●本人の意思を尊重しているか
●たとえ病のために苦痛や苦労が増えたとしても、限りある残りの人生をその人らしく充実したものにできたはずの可能性を勝手に奪っていないか
●残りの人生を寄り添っていきたいと思う気持ちや、大切に送ってあげたいという周りの人(親や配偶者や子ども)の気持ちも尊重しているか
この辺が決定的に違うかなと思います。
尊厳について考える時に必ず思いだす刑事コロンボのセリフ
こういう命の尊厳に関わるお話や現実の事件を見るたびに私が思いだすのは、
ドラマ『刑事コロンボ』の黒のエチュードというお話でコロンボが言っていた
「人間はさ、寿命まで生きるべきだよ」
というセリフです。
私は20歳で母を末期がんで亡くしており、病室で1人で看取っているので、ジョンの気持ちがすごくわかります。
母はもうしゃべることも出来ませんでしたが、亡くなる直前に母の手をギュッと握った時に、僅かではありますが握り返してくれたことを覚えています。
それは残された私にとって、辛い記憶であると同時に、生きていくうえでのひとつの糧(応えてくれた・見守ってくれている)にもなっています。
なので、やはり単に「苦しむなら早めに終わったほうが良い」だけではなく、
命が消える最期の瞬間までの記憶自体が、本人にとっても周りの人にとっても大切なものだと私は思います。
このあたりがチャールズに想像できたかと言われたら…なので、難しい問題ですね。
ラストを見て…継がないよね??
チャールズはジョンに対し「自分と同類だ」や「君も殺人者になる(実際チャールズを射殺)」などと言い、
身勝手な連続殺人をやたらジョンに継がせたい雰囲気を出していましたが…
ラストに若干の不安要素が残っていましたね🤔
キャサリンをかばった際に出来たジョンの額の傷が、チャールズの額の傷と同じ位置。
キャサリンは健康なのになぜ殺す対象なんだ?
→彼女は殺さない。でも君は彼女のために俺を殺す。
→実際にジョンはキャサリンをかばい額に負傷。
チャールズはこのくだりを全て分かっていて言っていたとしたら、かなり正確だし確定事項みたいな感じだったので、
チャールズが言っていた通りジョンがチャールズの代わりになる=ジョンも連続殺人犯になってしまう可能性もゼロではないのかも😭
傷の位置が同じ位置なのも暗示的で気になります。
久々のジョンからの手紙についてエリザベスが「以前と違う」と言及。
ジョンが仕事を辞めて隠居していたのは、
愛情からではあるが、苦しむ娘を楽にさせようと殺めてしまった自責の念から世間から距離をおいたのではないかな
妻とも連絡をとらなくなったのではないかな、と私は捉えていたので、
その以前と"違っていた"とするのであれば、
●「自責の念にかられ籠もっているのはもう終わりにして、妻といい関係を築いていこう」という前向きな変化かもしれないし
●「今回いろいろ経験して、やはり自分のようなこんなつらい経験をする人はもう居ないほうがいい」という逆方向の前向きな変化かもしれないし
どっちともとれるな…🤔と感じました。
ラストの「また会おう、ジョン」
公園で待ち合わせたジョンと妻エリザベスが歩いていく映画のラストシーン。
「また会おう、ジョン」というチャールズのナレーションで映画は終わります。
このシーンでは既にチャールズは亡くなっているので、もう心配する必要はないはずなんですが…
その直前のエリザベスと抱き合っている時のジョンの表情が、
悲しいわけでもなく、かといって満面の笑みでもない…何か内心に抱えている感じの表情で少し不穏でした🤔
まとめ
映画自体に、犯罪・連続殺人・犯罪心理・博士・医師など共通項が多く、
「アンソニー・ホプキンスといえばハンニバル・レクター博士」というイメージも世間一般に広くある中、
犯罪者を追い、その心理を探り、惑わされる側のジョンに彼をキャスティングし、
しかもしっかり考えさせられる内容になっていたのがすごいなと感じました。
娘やキャサリンに対しての父性、ジョーに対する相棒感など
人間味を表すシーンが多かったのも映画として面白かった要因かなと思います。
あまり大々的に上映された映画ではないかも知れませんが、
時間も101分とコンパクトで、とてもいい作品だなと感じました。面白かったです!
犯罪や捜査中の描写が結構露骨なので(R15指定)、そういった描写が苦手な方はお気をつけください🙇♀️
作品詳細
日本公開:2018年10月6日
原題『Solace』
監督…アフォンソ・ポヤルト
脚本…ショーン・ベイリー、テッド・グリフィン
●ジョン・クランシー(アンソニー・ホプキンス)…娘の死をきっかけに隠居していた元犯罪分析官。予知や過去を追憶する能力をもつ。
●チャールズ・アンブローズ(コリン・ファレル)…連続殺人犯。ジョンと同じ能力をもっている。
●ジョー・メリウェザー捜査官(ジェフリー・ディーン・モーガン)…連続殺人犯を追うFBI捜査官。ジョンの元相棒。捜査に協力してもらえるようジョンの元を訪れる。
●キャサリン・コウルズ捜査官(アビー・コーニッシュ)…連続殺人犯を追うFBI捜査官。ジョーの部下
(参考:映画.com )
予告編
↑映画『ブレイン・ゲーム』予告編 (シネマトゥデイ 公式YouTubeチャンネル)
読んでいただきありがとうございました🎥